プロゴルファーや上級者のプレーを見ていると、「グリーン周りまで来れば、あと2打でホールアウトできる」という感覚でプレーしているように見える。ところがビギナーはカップから5メートルからストロークしても何が起きるか分からず、見ている方もドキドキする。距離感が育っていないから当然なのだが、逆に言えば距離感を育てることがビギナーから抜け出す第一歩ということになる。本記事では、パッティングの距離感を身につけるビギナー向けのドリルを紹介する。
二八そばドリルの目的
距離感というと、10メートル以上のロングパットの練習をイメージする人は多い。ある程度、距離感が育ったアベレージゴルファーであればこの練習も無駄ではないが、目隠ししてグリーン上をプレーしているようなビギナーには、砂漠に水を撒いているような徒労感を感じると思う。
距離感を作るには、仮説と実行、そして結果の検証を繰り返して、仮説の精度を上げるしかない。ビギナーでも「これくらいはできそう」と思えるショートパットを少しだけ難易度を上げて、同時に状況のバリエーションも網羅して得意と不得意を見つけておこうというのが「二八そばドリル」の目的である。
練習する場所
これが一番ハードルが高いのだが、このドリルは自宅ではできない。ゴルフ場の練習グリーンなど、本物のグリーンで練習する必要がある。
時間に余裕があれば、スタート前に練習しても良いが、ある程度のスペースを使うので、他のプレーヤーの邪魔にならないように注意が必要。
お勧めはプレー終了後の練習。ゴルフのプレーが終わった後、大抵のゴルフ場はお願いすれば練習グリーンでパッティングを練習させてくれる。プレー後にマスター室に一言声をかけて、許可をもらったら何時まで練習して良いか確認しておこう。最終組がプレーを終えて戻ってくるまでは問題ないはずだ。
ゴルフ場から断られたら引き下がること。
用意するもの

二八そばドリルに必要なのは、パターとボール8個、マーカーとティーペグ2本。
ボールは、新品の同じボールを8個使用する方が良い。キャロウェイのサッカーボールの模様が入ったボールは、ボールの転がりが見やすいので特にお勧め。
マーカーはコインでも構わないが、ゴルフ場に置いてある押しマーカーの方が良い。
二八そばドリルとは
「二八そばドリル」とは、「2クラブ」の距離を「8方向」からボールを転がして、ターゲットの「そば」に止める練習である。ネーミングセンスに関するツッコミはご容赦いただきたい。
パターの長さは80センチ強なので、「2クラブ」は1.5メートル程度と考えてもらえば良い。「そば」の定義は、ターゲットの向こう30センチ以内とする。30センチは返しのパットが必ずカップインできる距離で、50センチでは外れる可能性が出てきてしまうのでダメ。ターゲットをオーバーさせつつ30センチ以内に止めるのが絶対条件。
まずは、練習グリーンのエッジから2クラブ以上の距離で、ある程度傾斜のある場所を探してマーカーを刺して、ターゲットとする。ターゲット周辺の傾斜は1〜2度あればよく、傾斜が2度以上あると難易度が高過ぎる(体験しておくことは良いと思う)し、1度以下では易し過ぎる。傾斜は、スマートフォンのアプリで計測できる。
次に、ターゲットに対して上りのストレートなラインを探す。ここだと思う場所からボールを打ってみて本当にストレートなラインか確認する。ストレートラインを探すのも練習の一環で、できるだけ1発で見つけられるようにする。見つけたらティーペグを刺しておき、反対側からもボールを打ってストレートなラインであることを確認して、こちら側にもティーペグを刺す。
ターゲットからティーペグを刺した方向へ、パターで2クラブの距離にボールを1つずつ(上りと下り)置く。ティーペグはストロークの邪魔にならないよう調整して、ターゲットを中心に90度回転した位置にもボールを1つずつ(フックとスライス)置き、残りのボールはその中間(45度回転)に置く。
ターゲットの周り8方向に45度間隔でボールを置いたら準備は完了。
二八そばドリルの注意点
いよいよストロークに入るが、注意点は3つ。
打つ前にイメージする(仮説を立てる)
本番のプレーと同じように準備してからストロークすること。準備とは打つ前にボール側とカップ側から傾斜を見て、ボールのスピードをイメージしてラインを決めること。具体的には、ボールがターゲットの向こう30センチ以内に止まる打ち出しのスピードと、ターゲットに近づきながら減速して止まるまでをできるだけリアルにイメージする。打つ前にリアルなイメージを描くことは、特にパッティングで重要。
イメージで決めた打ち出しのラインにボールのラインを合わせて置き直したら、イメージした打ち出しのスピードでボールを転がせるように素振りをする。
ビギナーがリアルなイメージを描くのは難しいと思うので、まずは1周りボールを打ってみて転がりを観察しても良い。大事なことはイメージをリアルに描けることではなく、分からなくても仮説を立てる、つまりイメージを描く訓練をすること。最初からできないのは仕方ないが、「できないからやらない」では何も変わらない。やらないからいつまでたってもできるようにならないのである。
イメージの作り方にはVAKという切り口があるが、これは機会があれば別記事で書くことにする。
構えたらすぐに打つ(決めたら迷わず実行する)
ボールを打つための準備はすべて終わっているので、ボールにアドレスしたら即座に素振りと同じストロークを行う。アドレスしたら結果を意識せず、素振りのとおりにストロークを実行することに全集中すること。アドレスで長時間静止してしまうと、素振りのイメージが消えてしまう。
8個のボールを打つ順番に決まりはない。上りのストレートラインから時計回りに打っても良いし、上りと下り、フックとスライスのように、対角線をセットにしても打つのも面白い。どんな順番で打っても打つ前の準備をしっかりやること。
ボールの転がりを観察する(仮説を検証する)
ストロークしたら、転がるボールが止まるまで観ること。結果を見ないと仮説が正しかったのか検証することができない。観ることで仮説と現実の差を感じ、次はもっとリアルにイメージを描くことができるようになる。
結果だけでは、できた・できなかったしか判断基準が無いが、打つ前に仮説を立てることで、イメージが間違っていたのか、ストロークを失敗したのか・・・の2つの観点から結果を判断できる。
イメージどおりにストロークできて、結果も狙いどおりなら、カップ周りの傾斜とともにイメージを成功体験として記憶する。イメージが曖昧なまま打ってしまったり、イメージどおりにストロークしたが結果が悪かったり、イメージどおりにストロークしていないのに結果が良かったなら、イメージを修正する。
イメージどおりにストロークできない確率が高いなら、ストロークのスキルが低いので、これは自宅のパターマットでも練習できる。特に上りや下りのストレートラインがターゲットの上を通過する確率が低いなら、ストロークの練習が必要だと判断できる。
二八そばドリルの効果
イメージを効率的に蓄積できる
ゴルフでは、カップに近づくほど打つ前にリアルなイメージを要求されると考えている。ストロークする前にリアルにイメージして、イメージどおりにボールを打ち出し、転がりを観察する。この繰り返しでイメージはさらにリアルに、そして正しいものになっていく。
プレー中のパッティングを含め、膨大な経験を重ねればイメージの蓄積は可能だが、グリーンでパッティングを練習する機会は貴重なので、少ない練習時間で効率的にイメージを蓄積したい。
失敗の原因を切り分ける訓練になる
練習量が多くても、結果を見るだけでは正しい原因にたどり着くことは難しい。原因の特定が誤っていれば、対処法もまた誤ってしまう可能性が高い。
二八そばドリルでは、比較的ストロークする難易度の低いショートパットで仮説と検証を短時間に繰り返すことで、仮説→実行→検証→修正のサイクルを身につける。こういった思考は他の練習にも応用できる。
計画と実行を分ける訓練になる
ビギナーのプレーを見ていると、考えずに打ったり、考えが決まらないまま打つことが多いように感じる。練習場でもマシンガンのようにボールを打っている。二八そばドリルは、2人一組で1人がストローク(実行)だけ担当してもいいくらいだ。打つ前の準備とストロークは、別人格になるくらいのつもりで練習してほしい。パッティング以外のストロークでも、考えることと実行することを分ける習慣は役に立つ。
得意なラインと苦手なラインが分かる
利き目や持ち球の関係で、パッティングでもフックとスライスのどちらかか得意になる可能性がある。8方向からパッティングを練習することで、構えやすさや成功率から得意・不得意を知っておけば、グリーン周りのアプローチやロングパットでミスの許容範囲が生まれ、余裕を持って方針を決められるようになる。
コース攻略の武器が身につく
100切りを目指すビギナーは、二八そばドリルでボギーパットの練習をしていると思えば良い。18ホールすべてで2クラブの距離からボギーパットを打てれば、カップインの確率が50%でも返しのダボパットは30センチ以内なので、スコアは99に収まる。
何よりも、ボールがカップに収まるってみないと何打かかるのか見当もつかない状態から、カップから1.5メートルの範囲に入れば1打もしくは2打でホールアウトできると思えるのは、コース攻略において一歩前進である。
まとめ
平坦な10メートルのパッティングで2メートル以上ショートしたりオーバーしたりするなら、1メートルのパッティングでも同様の誤差が生じているはずだ。それが20センチだから気にしていないだけに過ぎない。
短い距離のパッティングをシビアにコントロールできるようになると、5メートル以内のパットにも自信を持って臨めるようになるし、今までノーカンパットをしていた5〜10メートルくらいのパッティングも自然に距離感が良くなるはずだ。
ビギナーは、一つ目の武器を手に入れることに全力を注ぐことをお勧めする。
このドリルは、実際にビキナーゴルファーにも試してもらっている。
二八そばドリルではターゲットの上をボールが通過するのが望ましいが、これはそれほど重要なことではない。まずは方向より距離感が大事。ショートはNGだが、ターゲットを30センチ以上オーバーするのもNGである。上り・下り・フック・スライスの8方向全てでこれを成功させるのは、それほど易しいことではないはずだが、ビギナーでもどうしたらいいか見当もつかないほど難しくはないはず。
2クラブで難しいと感じるなら、1クラブで練習しても良い。8個のボールを打つのに10分以上かかるはずだが、1球ずつしっかり集中してストロークしてほしい。また、余裕があればボールを増やして12方向や16方向から練習するのもお勧め。
上級者であれば、ボールをターゲットの真上で止めるとか、オーバーさせる距離を25〜30センチに限定するなど、難易度はいくらでも上げられる。
ぜひ、試してほしい。
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