ゴルフというスポーツがビギナーに易しくない理由の一つに「ゴルフを練習する環境がない」という点がある。「打ちっ放しの練習場があるじゃないか」と思うかもしれないが、練習場ではゴルフというスポーツに求められるスキルの、ほんの一部を練習しているに過ぎない。ビギナーには、その「ほんの一部」の難易度も決して低くないため、練習場で良いボールを打つことが目的化してしまい、そのスキルが上がればゴルフも上手くなれると勘違いしてしまう。
この勘違いは、どうして発生してしまうのか、そして、どうすれば勘違いのサイクルから抜け出せるのか考えてみたいと思う。
ゴルフゲームとゴルフは違う
平成23年の内閣府の調査によると、小学生のゲーム機所有率は90%を超えるという。ゲーム機がこれだけ普及していて「みんGOL」のような人気ゲームがあれば、ゴルフゲームで遊んだことのない人は少ないのではないかと思う。ゴルフゲームによってゴルフに対する一定の先入観を持った状態でゴルフを始めるプレーヤーの割合もそれなりに高いと考える。
ゴルフゲームは、クラブ選択やライ、風向き、グリーン上の傾斜などいくつかのパラメータは表現されているものの、ゴルフ場でプレーヤーが体験するパラメータの数とは比較にならないくらい少ない。
そしてゴルフゲームには、プレーヤーのストロークのスキルがパラメータとして存在しない。画面上でストロークのゲージが動くタイミングさえ覚えてしまえば、ナイスショットを前提にマネジメントを組み立てることができる。番手によってストロークの成功率が変わる点も考慮されていない。この点が実際のゴルフとは大きく異なる。
ビギナーは、練習場でボールを真っ直ぐ飛ばせるようになれば、ゴルフ場でもゴルフゲームのようにプレーできると期待していて、ゴルフゲームのようなゴルフを目指しているように見える。
最初の1球が自分の実力
納得する球筋が打てるまで、同じクラブで同じターゲットに何度もボールを打つ・・・練習場でよく見る光景である。中には両手でクラブをグリップしたまま次のボールをたぐり寄せて打ち続けるビギナーもいる。
しかし、コースに出たら同じ場所から納得するまでボールを打つことはできない。それどころか、コースでは基本的に最初の1球でプレーをつなげていかなければならない。
そう考えると、練習場で最初に打つ1球や、クラブを持ち替えて最初に打つ1球は、練習場で最も集中して打つべき1球のはず。そして、打った結果がどうだったか、記録しておくことが望ましい。自分の実力を正確に把握していれば、「なぜ練習場のように打てないのか」というピント外れの疑問を抱くこともないはずだ。
実践的な練習をするために
コースを観よう
ビギナーは、自分がプレーしたコースを覚えていない。なぜ覚えていないかというと、コースを観ていないから。シャーロックホームズから今上ってきた事務所の階段が何段あったか尋ねられ、答えられないワトソンと同じ。コースの景色が「目に映っている」のと「観る」のは同じ行為ではない。コースを観ていないから考えることもできず、ただボールの所まで移動して打つだけの繰り返し。
これからボールを打つ方向に何があってフェアウェイの幅やグリーンの大きさはどれくらいで、どちらサイドならミスしても次のストロークに影響が少ないかとか、ペナルティエリアやハザードはどこかなど、情報収集をしながら「観て」いれば、コースを全く覚えていないなどということはあり得ない。ビギナーは、ストロークとストロークの間の時間を単なる移動時間や待ち時間と考えているように見えるが、自分の打順が来てからコースを見ているようでは遅い。
会話をしながらでも、移動しているときでも、次のストロークを打つまでの間にコースをよく見て何がどこにあって、どれくらいの距離で届くのか考えていなければいけない。
コースを観なければ、コースが要求する球筋も分からないので、練習の課題も見つからない。
同伴プレーヤーのプレーを観よう
ビギナーは、自分のプレーで頭がいっぱいなので、同伴プレーヤーのプレーを見る余裕がない。お手本になるような上級者とばかりプレーできるとは限らないが、アベレージゴルファーであっても反面教師として参考になる部分はいくらでもある。
具体的には「自分だったらどうするか」という視点で同伴プレーヤーのプレーを見る。すべてのストロークを観ることは難しいかもしれないが、1回のゴルフで自分も含めて最大4人分の経験を蓄積することができる。
ティーショットであれば、どこにティーアップするか観る。ティーアップする場所は、ルールの範囲でプレーヤーが選べるので、なぜその場所なのか考えたり、分からなければ質問しても良い。
そして素振りを観る。ビギナーは素振りを準備運動くらいにしか考えていないかもしれないが、素振りはこれから行うストロークのリハーサルなので、見ている人にも球筋が分かるような素振りをしているプレーヤーは上級者といえる。
他のプレーヤーを観るなら、プロゴルファーのプレーが最も参考になるのだが、TV中継では残念ながらボールにアドレスしてからの映像しか流れないことが多い。海外メジャーのTV中継は、アドレスに入る前からカメラが切り替わることが多いので、上記のような視点で観ることをお勧めする。
自分が打ったボールを観よう
ビギナーは、自分が打ったボールの行方すら見てないことがある。それではコースに出ても何の経験も蓄積できない。対戦相手から飛んでくるボールを打ち返すスポーツと異なり、止まっているボールを打つゴルフは、飛んでいくボールの球筋は100%自分がスイングした結果なので、これをしっかりと見ることで自分がイメージしたことと現実にやったことの違いを知ることができる。
まとめ
練習場でボールを打つことを否定するわけではないが、「真っ直ぐ飛ばす練習」ではなく「ゴルフの練習」としてボールを打たなければ、次のゴルフでも同じ結果が待っている。
練習場で「ゴルフの練習」をするためには、ゴルフ場で意識的に「観る」ことで「ゴルフの練習」として何をやるべきか考える必要がある。
ゴルフに対する誤った先入観を改めることができなければ、練習場でどれだけボールを打っても、コースで思ったとおりにプレーすることは難しい。
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